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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(れ)2256号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人松本重夫の上告趣意第一点及び第二点について

記録によると、被告人は第一審において、昭和二二年三月二五日従前の住所を変更し、新住所を東京都渋谷区中通り三ノ六〇番地と定めてその届出をなし、第一審裁判所もこれを認め、その判決において被告人の住居を同所と判示し、原審においても、被告人は弁護人選任届にその肩書住所として同所を記載している。然るに原審は、昭和二三年一二月一八日、昭和二五年一二月二六日、同二六年三月一三日及び同月二二日の各公判期日の召喚状を送達するに当り、その宛先を、被告人の前記変更前の住所たる、東京都品川区南品川六ノ四、土田精方としたため、いずれも不送達となり、その結果原審は、右三月二二日爾後公示送達による旨を決定し、よって昭和二六年五月八日及び同月一九日の各公判期日の被告人に対する召喚状は公示送達によってなされたのである。そして原審は、右五月一九日の公判において、旧刑訴四〇四条により、被告人正当の事由なくしてその期日に出頭しないものと認め、被告人の陳述を聴かないで審理し弁論を終結し、同年六月五日及び同月二六日の公判期日についても前同様公示送達による被告人呼出の手続をなし、同月二六日被告人不出頭のまま原審判決が言渡されている。以上の如き経過にあったため、被告人は原判決の確定も知らず、その後刑執行のため検察庁よりの出頭命令に接して事情を知り、直ちに原審に対し、上訴権回復の請求をなした結果原審もこれを理由ありと認めて右請求を許容し本件上告となった経緯を知ることができる。

以上の経過に照し、原審は、被告人の住居が記録上知れているに拘わらず、誤ってこれを知れざるものとして公示送達に付したのであるから、本件公示送達は本来違法であり、従って被告人に対する前記昭和二六年五月八日及び同日後の各公判期日の召喚手続はその効力を生じなかったものと解するの外ない。然るに原審は、適法な召喚手続があったものとして旧刑訴四〇四条所定の要件を具備したものと解し、被告人の陳述を聴かないで審判したのであるから、右原審の審判手続は結局違法であり、しかもその違法は原判決に影響を及ぼすことは明白であるといわねばならない。

よって本件に対しては、刑訴施行法三条の二、刑訴四一一条を適用して原判決を破棄するを相当と認め、爾余の論旨に対する判断を省略し、刑訴施行法二条、旧刑訴四四八条の二に則り主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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